そんな嘘ならついてもいいだろう。ただ、まだまだ修行が足りないから怪しまれていたけれど。 僕を頼って再来日したかの国の二人が寮を出て今月アパートへ引っ越す。家賃が二人で1万5千円倹約できることが理由だ。そこで必要になったのが、洗濯機と冷蔵庫と電子レンジらしい。偶然岡山駅の近くで会った娘に相談したらしくて、中古屋さんで揃えようとした。ところが事前に娘が調べていたものは古すぎてさすがに二人もいやらしくて、少しばかり値段がいいものを買った。結局3点買いたかったのが予算の関係で電子レンジだけ我慢した。そのことを電話で報告してきたのだが、娘は話を聞いている途中で慌てて電話を切った。そして「お父さん、電子レンジ一つ余っていなかった?」と僕に尋ねた。それらしきものが2つ台所にあったような気がしたから妻に尋ねてみると、一つ捨てたばかりだと教えられた。  娘に「お父さんが買って上げる」と伝えてと言うと、娘はすぐに電話をかけなおした。僕の伝言を伝えるのかと思いきや、「古いのが一つ余っていたから使って!」と言った。それからしばらく押し問答が続いた。やり取りの様子で、かの国の子がかなり遠慮しているのが分かる。娘は「古いから失礼なんだけど、使ってもらえればありがたい」と何度も繰り返していた。最後はなんだか娘が謝っているように聞こえた。どのくらい押し問答を繰り返したのか分からないが、結局は使ってもらえることになった。  古いのが無いのにどうして古いのが見つかったと言い張るのだろうと思いながら聞いていたが、娘が受話器を置いた瞬間に分かった。さては、自分が新しいのを買って、今まで使っているのを上げるつもりなんだと。やはり図星だった。娘達の電話での応酬を聞きながら僕の頭にも一瞬よぎったくらいだから、ひょっとしたらかの国の子に悟られたのかもしれない。  果たして見え透いているのか見え透いていないのか分からないが、おそらく僕でも同じことをするだろうことをしてくれたことがとても嬉しかった。何かを教えるように育ててきていないので、価値観を共有することが親子で出来ているのかはなはだ心もとなかったので、少しは似ていることを発見して安堵した。