理不尽

 それはそれは恐ろしい光景だった。 その女性は、かの国の人にしては珍しく色が白い。日本人より白く見える。名前からしても恐らく中国系なのだろう。「おいしそう」彼女が我が家のモコ(ミニチュアダックス)を膝に抱えて長い胴体を撫でながら思わず漏らした言葉がそれなのだ。言葉が理解できない故の表現間違いか、あるいは本心がつい漏れたのか分からなかったが、若い女性の口から出る言葉ではない。「こわーい、モコちゃん気をつけて」と言って妻が思わずモコを取り上げた。 かの国の人も又犬を食べる習慣があるみたいだ。美味しそうと言った女性は数回食べたことがあり、もう1人はないと言っていた。どんな食感や味がするかなどそこから先の興味は湧かなかった。恐らく軒並み食べるのではなく、食用に適した種類があるのだろうが、曲がりなりにも20年以上2匹の犬と同居した経験から、食用には出来ない。「○○さんは、日本人より色が白いね」と言うと、モコの方を見ながら「犬を食べたおかげ」と言った。  僕はこの間の会話で一体彼女たちはどの程度の教育を受けているのだろうかと思った。僅か1~2年の滞在で、日本語でどうしてこんなに面白い冗談が言えるのだろうと不思議だった。日本人がいやがる単純労働を一気に引き受け、忍耐強く仕事に励む姿はまばゆいばかりだ。もし経済的に保証があればもっともっと高い教育を受けることが出来るだろうに。勉強、勉強と繰り返し出てくる言葉に理不尽さを隠せない。