下見

 決していい想像はしていなかったのだが、それでも想像以下だった。スラムとは言えないが、ほうっておけばスラムになっていただろうと言うような外観だった。若い異国の男性が数人で、バスケットボールらしきものをしていて、一人の女性が犬と戯れていた。日曜日の昼下がり、大通りから少し入った界隈は、妙に静寂で、車1台がやっと通れる道路を少しだけ登ったところに、寮と呼ばれる建物があった。  明日、僕とかの国の若者を近づけてくれた原因の女性が再度来日する。なにやら寝具一式がないらしくて、かつての牛窓にいる同僚が、自分たちの寮であまっているものを使わせてあげるらしい。こんなことはかの国の人にとっては当たり前で、お金だって結構自由に貸し借りする。さて、その寝具を運ぶのはやはり僕らしくて、昨夜、国際電話で、かつて良く聞いたフレーズを復活させた。「オトウサン ヒマデッカ?」決して図々しいのではなく、人懐っこさがなせる業で、かの国の人はおおむね遠慮深い。  教えてくれた住所に心当たりがなかったので、今日下見を兼ねて訪ねてみることにした。カーナビ便りに走ると、確かにその近辺までは連れて行ってもらえたのだが、番地が一致しない。仕方なくすれ違った方に教えてもらったのだが、こんな袋小路みたいなところに住宅が一杯建てられているんだと、今までの岡山のイメージを変えなければならないような風景だった。小さなアパートがいくつも連なり、その先に寮と思しき物を見つけた。  5,6階立ての建物が数棟並んでたっていた。築どのくらいだろうか。恐らく昔は白い外観だったのだろうが、今はくすんでいる。そして一様にどの部屋の手すりも錆びていた。昔は公団住宅、あるいは市営住宅などと想像してしまいそうな画一的な建物で、解体する費用が出ないから仕方なく寮として学校に貸しているというところだろう。日本人なら敬遠するだろうが、外国人留学生にとっては文句を言うことができないのだろう。かの国に帰ってどのくらいの生活水準を保っていたのかわからないが。来るたびに国力の差が身にしみるかも知れない。決して個人の力の差ではないのに、理不尽が再現される。  「オトウサン サベツッテシッテマッカ?」