親切

 僕は親切な薬局を目指して日夜奮闘している。今日も自分でもいい仕事をしたなと自負している。 彼は、ずっと以前から義理のお兄さんがもう危ないと言っていた。哀しんでいるふうはなく、それ見たかというような言い方をしていた。健康お宅の彼にとって、無頓着なお兄さんは許せなかったのかもしれない。そしてついに亡くなったから瀬戸大橋を渡って葬式に出席した。葬式から帰って数日たって胃の調子が悪いと言ってやってきたのだが、僕は何か明かな原因があるだろうと考えた。最初は思い当たることがないと言っていたが、そのうち、あれかなと思いだしたように言ったのが、葬式の前にお腹が空いたからレストランでトンカツ定食を食べたことだ。その後数時間たってから胃が急に痛くなったと白状した。よりによって葬式の直前に、そんなゴッテリとしたものをよく食べられるものだ。僕より数歳年上なのになんて強い胆嚢なのだ。うらやましい。その後、何度も何度もどうして胃が悪くなったのかと質問を繰り返すので僕はいつもの親切な態度で優しく諭してあげた。「亡くなったお兄さんが乗り移ったのではないの」  病院好きで漢方薬好きだから彼は忙しい。しょちゅうどちらかに行っている。しばしば来たいために漢方薬も多くは持って帰らない。だから僕は彼の身体を利用して漢方薬が如何に早く効くか教えてもらっている。病院好きな割に胃カメラは苦手と見えて、今まで一度もしていない。僕は腸よりは楽なのではないのと思うが、本人は腸に関してはベテランだ。奥さんが病院で僕の息子の名前を見つけて、胃の内視鏡をしてもらえと勧めたらしい。気が小さいから色々と探りを入れてくる。僕は彼に心配させてはいけないと思って約束した。「もし胃ガンを見つけても綺麗な胃ですとごまかすように息子に言っておいてあげるから安心して検査に行って」  今日も僕は親切に徹している。