隙間

 数学の先生と卒業記念の写真をとっている。これだけでも僕には考えられないくらいの業績なのだが、卒業生代表になったりしているのだから大したものだ。東北地方随一の難関大学に入学したのだから当たり前なのかも知れないが、漢方薬を作った人間と飲んだ人間がこうも違うのだから世の中は面白い。 お母さんからのメールは、短い文章の中に要点だけが収められていた。中学校から服用してもらったから随分長い間のお付き合いだが、僕の匙加減の情報としては充分なものだった。真面目だとか努力家だとか、潔癖だとか、責任感などと、賞賛や評価の言葉は一度も出てこなかったような気がするが、僕は文章の内容から逆にそのような言葉こそが似合う少年を想像していた。恐らく間違っては居なかったのだろう、大学合格の報告と写真が添えられたメールでその事に自信を持った。 およそそれらの言葉と無縁の生活を送ってきたので、どの様な少年が漢方薬を飲んでくれているのだろうと時に思った。特に原発事故があってしばらくして、少年の住む町の名前を時々テレビで目撃するようになってから、その思いは強くなった。顔も姿も分からないが、勝手にイメージした学生服姿の少年の健康を願った。そして大学進学を機に、見えない臭わない恐怖から少しでも離れてくれればいいのにと思っていた。  頑張りたくても頑張れない若者が、頑張りたくても頑張らせて貰えない若者が又春には縁をつないでやってくる。自身や家族の貢献の100分の1も出来ないが、その100分の1がないばかりに青春を失ってしまうこともある。その隙間を埋めることが出来たら僕の漢方薬も報われる。