上司

 いつも来る若いセールスが上司を連れてやって来た。ある漢方の製薬会社の部長だが、最近はどんな立派な肩書きを持っている人でもほとんどが年下になった。牛窓に帰ってきた頃はどんな下っ端のセールスがやって来ても年上だったのに。 あることに対するお礼に来てくれたのだが、部下からどの様な情報を得てやって来たのか、若干面食らったところがあったのかもしれない。あることとは、会社が企画したイベントにたいしての少しばかりの心遣いだったのだが、そのことにえらい恩をきてくれて、わざわざお礼にやってきたのだ。ただその心遣いは僕の力ではなく、結局は僕の漢方仲間や、僕らの共通の先生の力なのだが、ただ窓口でしかなかった僕の力と勘違いしてくれたのかもしれない。だからどんな立派な薬局だろう、どんな立派な薬剤師だろうと思ってやって来て、予想に反していた節が読みとれた。 その一つ、漢方専門薬局ではないんですかという質問。僕は漢方薬だけで皆さんをお世話しようとなんか思っていない。サロンパスで治るものを理屈をこね回して漢方薬を飲んでもらうつもりはない。お金を頂く理由がないし、ただでさえ原料が枯渇しそうな生薬の無駄になる。専門薬局を標榜して、洋服の青山のスーツを着て、毎月散髪に行き、高級な調度品を揃え、流ちょうな標準語を使い、軽症でも重病のように応対すれば、料金が何倍にも跳ね上がる。いくら高くても許される雰囲気になってしまう。それで漢方薬の効果が上がるならいいかもしれないが、効かせることとは全く連動しない。だから僕は昔のままのごくありふれた薬局の、ごくありふれた薬剤師で通す。それよりもなによりも居心地が悪すぎて僕が病気になる。だから今のパターンしか選択肢はないのだ。  もう一つの質問。相談は予約ですか。この答えも簡単だ。僕は漢方薬を求めてくる人を予約にして応対するほど忙しくない。また根ほり葉ほり質問しなければ処方が決まらないわけでもない。30年以上人と接していればポイントは自ずと分かってくる。だからまるで尋問みたいな光景はないし、やたら説教するほどの節制も僕自身がしていない。  わざわざ遠くから来て肩すかしを食らったかもしれないが、こんな薬局もあるんだと立派な肩書きを持っている人だから知っておいて欲しい。一握りのセレブを世話するカリスマ薬局もあってもいいが、その他大勢を世話するその他大勢の薬局も必要だろう。もっとも福山雅治似の僕にとって今の薬局は所詮カリスマイ薬局なのだが。