乗り過ごしかけたから慌ててバスの運転手さんに止めてもらって降り立ったら、丁度縁石の上で思い切り膝をねじってしまったらしい。大の大人が大きな声をあげてしまったらしいが、無慈悲にもバスは行ってしまった。よくあることもこんな落ちが付いたらたまらない。 さてその男性が杖をついている理由をひとしきり話してくれた後、最近の不調続き(奥さんの骨折、自分の喘息)は蛇を3匹も殺したたたりではないかと思うと神妙な顔をして言うから、「僕もそう思う」と思いっきり真剣な顔をして答えた。  以下は彼が教えてくれた数日前の出来事だ。 昼下がりぼんやりと家庭菜園を眺めていた。確か昨日までは大きく育ったキュウリが3本ぶら下がっていたのに、今日は2本しか見えない。おかしいなと思って眺めていると、風もないのに長いロープみたいなものが揺れている。確かめるために菜園に向かうとなんと1メートルくらいある蛇がキュウリを飲み込もうとしていたらしいのだ。キュウリの長さを手で教えてくれたが30cm近くありそうだった。それの3分の1ほどを飲み込んだままでぶら下がっている。だからキュウリが1本なくてロープがあるように見えたのだ。キュウリを食べられた腹いせに彼は数日前に丁度買っていた鎌を蛇の首めがけて振り下ろしたらしい。首めがけて振り下ろしたと彼は言ったが、僕にはどこから何処までが首か分からない。首と胴体の区別はどうつけるのだろうか。でもとりあえず首を切られた蛇は当然キュウリを口から放し地面に落ちた。それを池に捨てたのだが、隣が空き家になった今年は草がぼうぼうに生えて、蛇やムカデが沢山出て困ると漏らしていた。  本人にとってはとんだ夏の始まりだろうが、僕には興味深い話だった。隣が売りに出ていると聞いたのは最近の話だ。だから恐らく最近までお隣さんには住人がいたのだろうが、ちょっと住む人がいなくなるだけで、人の気配がなくなるだけで、好まざる生き物達が占拠してしまうのだ。もっとも人間は巨大な生き物だから、他の生物にとっては脅威だろうから共存はなかなかできないが、空き家になればすぐに生き物たちは悟って住処となすのだろう。  国破れて山河あり、そうした風景がそこかしこに見られるが、こうして自然にいずれ返ってしまうのかなとセンチメンタルになることがある。そうなるべきとも思ってしまう。人間の強欲で壊し続けた山河をいずれ返さなければならないような漠然とした予感がする。