歓楽街

 今日も僕は労働者。場末のシャッター通りで荷物を抱え階段を上り下り。今日も僕は労働者。真っ昼間には似合わない人達が時折行き来する中で、そんな人達を避けるように台車を黙々と押す。男も女も子供達までが何となく僕の普段とは異なる。出来れば見たくないような触れ合いたくないような、その種の服装や顔つきや話し声に萎縮する。今日も僕は労働者。奥さん(お嫁さん)が白い封筒でお礼をくれた。昼飯代くらいかなと思って軽く受け取っていたら、ホテルのディナー代くらい入っていた。と言ってもそれがどのくらいするのか知らないのだが、僕の昼飯なら1ヶ月は食べれそうだ。今日の日当なり。日当って嬉しいものだ。学生時代の訳の分からないアルバイト以来だ。あの頃の貧乏が懐かしい。金はなかったが、愛すべき先輩や後輩に囲まれていて、みんなで留年した。今日も僕は労働者。百貨店はトイレなり。幸せな光景に紛れ込んで、紳士服だの化粧品だのデパ地下だの、トイレなり。今日も僕は労働者。昔、学生服のカラーが首にあたるのがいやでいつも詰め襟をはずしていた。校門で先生に注意されたが、生理には勝てなかった。学校帰りに立ち寄る本屋は夜には歓楽街に変わるその場所にあった。不良ではなかったが志もなかった。数十年の時を経て僕は今この風景と共に「陥落街」に立つ。