肉体労働

 明らかに人選ミスなのだが、言われてみればその集団で若い男性と言うことになると、僕が当てはまってしまうのだ。社会の構図から言うとすこぶるいびつだが、恐らく色々な集団で同じようなことは確実に進行しているのだろう。世代が上の人達にとっては年齢を意識することが少ないから居心地はいいのかもしれないが、伝えなければならないことは明かに断絶してしまう。 大工と鉄工所の職人の2人の祖父を持っている割に僕は不器用だ。世渡りも勿論不器用だが、手先はそれに劣らず不器用だ。そんな僕に白羽の矢が立ったけど、さっきの条件だから引き受けないわけにはいかない。何処で買ってきたのか知らないが、ショーケースの土台部分を組み立てるように依頼された。2人で担当するように言われたのだが、幸運にも相手がいつも陰になって支えてくれている男性だったので、一安心だ。設計図を頼りに始めたのだが、相手の方もどうやらそんなに得ててはいないみたいだった。だから頭をひねりながら、ドライバーをひねりながら、ついでに腰の鈍痛に襲われながら、日曜の昼下がり、床の上に腰を下ろし2人で日曜大工の真似事をした。たった一つの棚だが、ひょっとしたら2時間くらいかかったのかもしれない。ほとんどの方が帰っていなくなっていたから。ただ出来上がったときには、それなりに達成感があって、こんな過ごし方の日曜日もあるのだと、若干の解放感に襲われた。その作業を依頼されていなかったら、家に帰って、月曜日に取りに来る2人分の煎じ薬を作っておこうかと考えていたところだったから。  いつからこんなに休み下手になってしまったのだろうと思うが、学生時代一生分遊んだことの罪の意識が潜在的にあるのかもしれない。もう充分返したような気もするがトラウマはなかなか消えないものだ。  帰りにいとこの家により、新米をもらった。持とうとしたがとても持てそうになかったので、ネコ車を借りて車までの坂道を運んだ。ネコ車を使ったのなんていつからだろう。大学生の頃祖父を手伝うために長期休みに泊まり込んでいたとき以来だろうか。余りにも米が重たいので重量を尋ねると30Kgだと言っていた。仕事に差し支えなければ持って持てないことはないが、ちょっと挑戦したツケが今でも残っているから、やはりネコ車を借りていて良かったと思う。  今日は少しだけ肉体労働者。肉体労働にあこがれていたが、僕にはきっと続かなかっただろう。すぐに体をこわして首になるのがおちだ。ただ、恐らく僕くらいの身体的な能力で肉体労働についている人も多いと思う。どの様にしのいでいるのか分からないが、恐らくかなりの苦痛と同居しているだろう。強い信念か、食うための執念か、はたまた諦めか知らないけれど、いつかは悲鳴を上げるのではないか。  僕らは工程の半分あたりで初めて、棚が横向きだと知った。それまでは立てらせる棚だと思って作っていたのだ。これが本当の「横の物を縦にもしない」だ。いや「縦の物を横にもしない」か。