上から目線

 「さすがですねえ」と褒めてもらったのだが、何となく上から目線だ。その言葉に悪意が全くないのは知っているし、ご主人の肩書きから言うとその様な言葉が自然に出ても仕方ないのかもしれないが、別に褒めてもらうようなことではなかった。ご主人の名前を言えば県内ならかなりの人が知っていると思うが、意外と奥さんは気さくで、気位が上から目線ではなくて、年齢が上から目線なのは分かっている。  活躍している人の心の内は下々の人間からしたら推し量ることは難しい。一見豪快で何の苦労も不安もないように見える人が、実は充実した生活を謳歌しているとは限らない。職業上も家庭の中も結構危うい人がいる。  肩書きの大きさに比例して達成すべき果実も大きいのだろうが、酒だけの力ではいかんともしがたく、僕の漢方薬を数年愛用して心身共に平静を保っていた。おかげでずいぶんと血が上る状態が少なくなり、奥さんも喜んでくれていた。ところが長年の交換神経優位状態が影響したのか癌になってしまった。術後体力の回復が遅々として進まないことと共に、気持ちも一気に沈んでしまって往年の力強さはない。そこで奥さんに心も体も強くなる漢方薬を作るように言われたのだが、その結果が最初の言葉だ。遠い方だから僕には珍しく最初から1ヶ月分作って飲んで頂いたら、それこそ見る見るうちに食欲が出て倦怠感が消えて、消極的になっていた心も元に戻ったということだ。  僕が作ったのはたいした漢方薬ではない。多くの若者に飲んで頂いている金額と余り変わりない。癌と聞けばカリスマ薬局だったらこことばかりに高額のものを売りつけるのだろうが、高額だから効くなんてのは売る側の都合と買う側の妄想だ。唯一の判断基準は正しいかどうかだけなのだ。  京都大学の小出先生が毎日奮闘している。力を持っている人達から疎ましがられ公に出ず情報を発信し続けておられるが、権力を持っている側の情報とどちらを信じるかと問われれば僕は圧倒的に先生を信じる。どの世界でも同じなのだ。本当に価値のある人は我が身に多くを求めないからいつだって謙虚だ。僕らの職業も同じだ。カリスマが何かを救ったのを聞いたことがない。救っているのは自分だけなのだから。対象が何でも怪しげなものを見抜く力のない人達を哀れに思う。