先人

 世界的に有名な大学の留学経験が華麗な経歴の中でも一際光っている。僕など足元にも及ばないし、ほとんど後光が差している。花の都の大東京で実費による漢方診療を行っていたはずなのだが、いつの間にか他県の勤務医になっていた。とは言っても偉い人には間違いなく、そこでの肩書きも凄い。講演には多くの薬剤師が集まり、その実績や知識の片鱗にひれ伏すのだろう。漢方の世界にもこうしたカリスマ医師が時々いるみたいで、余りにも高尚なので、保険治療などと言う俗人の世界を超越して実費で勝負するみたいだ。保険診療で庶民を相手にしなくても、健康にはいくらでも投資する階層を相手していれば良かったのだろう。花の都はそうした大金持ちが多いからうって付けだ。他にも同じような話を聞いた。  ただ、それも又バブルだったとしたらこうした転身もあり得るのかなと、げすの勘ぐりで勝手に溜飲を降ろしている。田舎の立地と言うだけで致命傷なのに、肩書きも、知識も、オーラもない、ないないづくしでその上に現金勝負。保険の援軍などあるわけがない。住人が少ないから、効かないなんて噂は命取りになる。懸命にハンディーと戦ってここまで来た。  よせばいいのに、又一つ製薬会社が漢方薬に手を出すという。これ以上生薬を浪費したら、それこそかの階層の人しか、かのカリスマ医師レベルしか漢方薬を飲んだり作ったり出来なくなる。漢方薬だと馬鹿にされた時代を耐え抜いて伝承してきた先人薬剤師達の努力がいとも簡単に横取りされる。強いものが勝つのはまだ耐えられるが、強いものだけが治るのは受け入れられない。