実名

 出来れば実名を挙げて話を進めたいくらいだ。実際に無駄な出費をさせられている人が五万といるはずだから。勿論法律を犯しているわけではなく、見方によっては業界の実力者かもしれない。でも僕の薬局では、いや娘達の目指している薬局でも到底受け入れられる考え方ではない。だから帰ってくるなり成果より先に教えてくれたのだろう。 ある製品を精力的に販売している会社の勉強会に出席したらしい。会合の中でフリートークがあったらしいのだが、娘が質問したのに応えてくれた人の回答が僕の薬局では付いていけないものだった。恐らく沢山販売して、会社にはちやほやされているのだろうが、その実力者らしい人の答えが、若い薬剤師に向かって言う言葉ではなかった。多くの方が何に効くのかハッキリしないと謙遜気味に語ったのとは裏腹に「薬は効かない方がいい」と言ったらしいのだ。僕の薬局では「出来るだけ早く効かす」を唯一の目標に真剣勝負を毎日繰り返しているから、「治らずにダラダラ飲んでくれる薬が理想」とは決して相容れない。恐らく世間から見れば向こう様が立派な実力ある薬局に見えるだろう。何故なら効かないのにずっと飲ませ続けれるのは並大抵の説得力がないと出来ない芸当だから。僕なんかすぐに謝って、処方を調節させてもらう。漢方薬にしたって、症状によっては1日分を出すこともあるから、それこそ効くか効かないかの真剣勝負なのだ。製薬会社の薬を売れば、効かなければその薬のせいに出来るが、自分で作った薬が効かなければ完全にヤマト薬局のせいなのだ。そんなリスクを30年近く背負ってきた。だから目標7割なのだ。7割の方を治さないと、薬局が存続できない。それ以下の治癒率なら衰退していくばかりだ。同じ覚悟を娘夫婦も受け継いでいるらしく、風邪薬など2人で作った薬が風邪の患者の9割の人に飲まれている。そんな覚悟を決めている若者達に例の返答はお粗末すぎる。薬局があれば十分なのに、ドラッグストアが隆盛なのは、そんなつまらない商売を見透かされているからだろう。  いい薬局を見つけるこつはこれ見よがしに一つの商品を大量陳列していないこと。一つのものですべての症状を網羅できるはずがない。次は薬剤師が不健康そうなこと。本気で薬剤師に徹すると病気になる。難病を標榜していないこと。難病は医師の独壇場でそれ以外の素人が入っていけるはずがない。患者の財布が痩せて薬局のレジが太るのでは申し訳ない。