朝早くゴミを出していたら、近所の奥さんが「今日も寒いですね」と言うから「そうですね、でも今日は風がないからまだ楽ですね」と僕は答えた。氷点下の冷え込みだったらしいが、風に頬を切られなければまだしのぎやすい。そう言えばつい数ヶ月前には「今日は風があるからまだ過ごしやすい」と同じゴミ出しの挨拶でしたことがある。そうしてみると風もありがたがられたり、いやがられたりでままならないだろう。好きで吹いているわけではないし、好きで止んでいるわけではない。100%人間の側の理由だけで評価が振り回されている。純粋に気象条件だけに支配されているのに、人間の感情で振り回されては叶わない。 雨にしても気温にしても、この都合がまかり通る。風や雨や冷え込みの恩恵で命を育まれているのにどうも感謝の念が薄い。自然に対してこの有様だから、事人間に対してなんかこの比ではない。ある人も対象によっては悪人にも善人にもなる。善ばかりでつながっている鎖でも時に息苦しくなるから、適当に錆びたのが混じっているのも良い。  風で運ばれる命も、風で壊される命もある。玉石混淆と分かっていても、身の回りはほとんど石ばかりだから、吹く風にあたってみたくもなる。自然の摂理に完全に従順な風に都合を振りかざす人間の都合には、風も呆れるだろう。いやいや雄大な自然にとってご都合主義の悪口には何処吹く風くらいの響きしかないのかもしれない。