神話

 正直、かなりショッキングな話だった。僕の田舎神話がもろくも崩れ去った。いくら背後に山が迫り、前に海が広がっても、最早子供の心を蝕むものを遮断することは出来ないのだろうか。精神の要塞なんて最早あり得ないのだ。  牛窓には小学校が3つある。牛窓町の合併以前の学校がそれぞれ残った形だ。3校にはそれぞれ昔の地区を象徴するような固有の特徴があり、田舎の町の中で、都会的な雰囲気がある学校、田舎の中の田舎を自称するような学校もある。  ところが、田舎の中の田舎の学校以外の2校で、小学生が刃物を持って登校している話や、授業中に自由に歩き回る生徒がいることをつい最近聞いた。学級崩壊気味というのは少しは耳に入ってはいたが、刃物を小学生が持ち歩き、顔の前に出して威嚇するなんて話は聞いたことがない。 成長過程で何があったのか、何がなかったのか分からないが、多くを失ったまま成長するだろうその子達が哀れだ。又その様な子と一緒の時間を強要される子供達も気の毒だ。何時の頃から見られる光景になったのか分からないが、少なくとも娘が通っていた頃にはなかった光景だ。と言ってもそれから20年近く経っているのだから様変わりしても仕方ないが、なにも原因がなくしてその様な変化はないだろう。社会環境のせいにするのか、家庭環境のせいにするのか、はたまた食べ物のせいにするのか、何かのせいにしなければ落ち着かないが、社会崩壊の導火線に火はもうついている。格差などという同じ土俵の中の出来事では収拾がつかなく、やがてベルリンの壁が此処彼処に出来るだろう。どちらがどちらを隔離するのか知らないが、壁の向こうは別の世界になってしまう。いやもう見えない壁はいくつも作られている。後はそれに石垣を積むだけだ。  圧倒的な自然の中で暮らす子供の心で殺伐とした敵意が制御を失っている。「田舎」で保証される絆はカッターナイフ一つに勝つことは出来ないのか。O脚の老婆があぜ道を這う。