観光協会

 その事実を僕は到底受け入れられない。もしそれが本当なら、綾瀬はるかも、吉瀬美智子も毎日専用のハサミで鼻毛を切っていることになる。そんな光景誰が想像できようか。いやいや、あんな美人にそもそも鼻毛などあるはずがない。 いつの頃から牛窓に住んでいるのか分からないが、二人共に最上級の評価を僕がしている夫婦がいる。肩書きや実績はおよそこの町では他に見つけることが出来ないが、それにもまして誰にも劣らない謙遜を身につけている。話していて誰がそれらの肩書きを想像できるだろうかと言うくらい謙遜な二人だ。ついでに言うならお子さんまでもがすでにその様な素養を身につけていて、揃うところには揃うものだと少しだけ世の不平等を感じたりする。 東京で仕事をしているのだろうが、多くを牛窓で過ごす。空気の綺麗さをかなり評価していてくれて、例のpm2.5の件でも、東京や大阪の空気の汚さに比べれば何でもないですと言ってくれる。意外とおおらかなように聞こえるが実際には、東の放射能を避けて、牛窓の滞在時間を延ばしているくらいこと環境には気をつけている。こうした話題で話を進めているときにご主人が「東京で暮らしている時は、鼻毛の伸び方が凄かったですよ」と、鼻から毛が伸びてくる様子を大袈裟な仕草で教えてくれた。まるでトランプのキングの髭みたいな仕草だった。それを見ていた娘が結構大きな声で笑った。とても真面目な方がその様な面白い仕草をしたから余計に印象深く、東京の空気の汚れ具合が伝わってきた。「牛窓に来たら全然伸びないです」と言うくらい違うらしいのだ。  この事実は彼特有のものではない。東京を始め都会で暮らす人共通のものだ。田舎と住み比べたことがない人には分からないかもしれないが、彼のように、自然溢れる母国、東京、牛窓と住み比べてみれば良く分かるのだろう。となると冒頭の二人の女優のみならず、有名な女優達のほとんどが鏡に向かって鼻毛を揃えているはずで、その姿を想像すれば興ざめする。あの二人に鼻毛は生えていないにしても、並の女優なら生えているはずだ。もう名前を忘れたが、牛窓にロケに来た首の長い女優もそうだったに違いない。そして同じように牛窓滞在中は伸びなかったはずだ。  牛窓を強烈にアピールするキャッチコピーを思いついた。早速明日観光協会に行って採用して貰おう。「伸びない町で伸び伸びしよう」