1年余りの間に3回くらい電話で話をしたが、一度も礼を言われたことがない。礼を言って貰うことを目的に仕事をしているわけではないが、僕の薬局を利用してくれている人の中ではあり得ない話だ。 当初、本人も言っていたが運が良かった。色々な病院でありとあらゆる下剤を試したらしいが、何もこれはと言うものにあたらずに途方に暮れているときにかかった医院で、偶然バイトしていた息子にふとお願いしてみたらしいのだ。そのお願いの言葉が「もう、煎じ薬しか残っていないんですが」だった。当然息子もそれに対する処方を持っているわけではないので、僕に電話をしてきた。そしてある処方を紹介して以来1年あまり服用している。途中低体温も治したいと言ってきて、その処方も紹介して飲んでいる。煎じ薬を作ってくれる薬局が岡山市内で見つからなかったので、僕が作っているが、服用してからの経過など全く本人の口から伝えられなかった。紹介してきた息子と以来日にちが合わなくて息子もその後の経過を知らないみたいだった。  昨日珍しく本人から電話があったので、経過を尋ねることが出来た。すると便は毎日でるし、体温も上がってこの冬は寒くなかったらしい。おまけに、これは初耳だったが、30年前に大病をしてからずっと調子がよい日などなくて、後遺症との戦いみたいな日々を送ってきたらしいのだが、それが何と結構体調が良くなったらしいのだ。恐らく僕が老人を元気にする処方を紹介したのが功を奏したのだと思うが、本人にとっては儲けものという程度の受け止め方だった。この様に本人が望んでいたような結果が出ているのに、その日も又何の礼も言われなかった。  僕はその女性が薬を飲むために何の痛みもないからだと思う。国の金で、まるで幼子の小遣いくらいの金額で高価な漢方薬を飲んでいるからだと思う。後期高齢者だから極端に安い金額で漢方薬が飲める。薬局に来て薬が出来るのを待つのでもないから、僕が1時間くらいかけて作っていることも想像できないし、効果を高めようとない知恵を絞っている姿も見ることもないから、価値が分からないのだ。僕の先生の先生が、患者の質を担保するために医師でありながら自費診療にしたのも頷ける。田舎の薬剤師でも不愉快なのだから、最高峰の漢方の実力を持たれていたと言うお医者さんとしてはプライドが許さなかっただろう。  あり得ないも沢山集まればありふれたになる。だから沢山集めないことだ。あり得ないはやはりあり得ないくらいにしておかないとこちらがもたない。