正体

 誰が何処で仕入れた情報で褒めちぎったせいか知らないが、かの国の女性がかの国独特の容器でかの国独特の入れ方でコーヒーを作ってくれる。「かの国のコーヒーは世界で2番目に美味しい」という褒め言葉だったのだが、僕としてはわざわざ2番目のコーヒーではなく、出来れば一番のコーヒーで常に接待を受けたいものだ。ただそんなことは言えないから、独特の濃いような焦げたような、それでいて甘っとろい味を楽しませて貰っている。 コーヒーをたててもらっている時漂ってくるなんとも言えない良い香りと、直接飲み始めたときの甘っとろい味とのギャップにいつも戸惑っていたのだが、今日その変身の原因が分かった。いつもは運ばれてくるまで詳しく工程を見ることはなかったのだが、今日は偶然最後の仕上げの部分を見てしまったのだ。金属製のドリップから落ちたかなり濃いめのコーヒーに何と練乳を加えるのだ。そうなのだ、一石二鳥を狙っているわけではないだろうが、ミルクと砂糖を同時に入れているのだ。それも練乳で。例の甘ったるい変身の原因は練乳だったのだ。なるほど正体を目の当たりにしてみればコーヒーの味の中に練乳を見つけることが出来る。今まで数多くの料理を作ってくれて、とてもご飯のおかずにはなりにくいだろうと言う味に苦しめられていたが、恐らくそれらの多くのものに練乳がたっぷりと使われていたに違いない。塩味が好きな日本人には、真逆の味付けだ。米とは絶対に合わない。自信を持って言える。 今更味覚を変えることは出来ないから、作り笑いの精度を上げてきたが、理由が分かればそんなに忌み嫌うことはない。元々甘党の僕は練乳は大好きなのだから。でも願わくば、練乳は練乳として独立して味わいたいものだ。