捨て石

 自慢するものがなければ何でもネタにするのは、最近の最高気温合戦を見ていても分かる。多治見や熊谷の人達のインタビューを見ていると、一種の快感が伝わってくる。どちらも地方都市らしくて、登場する人達の表情がとてもいい。照れながらの自慢ぶり、居直ったような自慢ぶり、自虐的な自慢ぶり、どれも降って湧いた新ネタに便乗している。  さてここで岡山も降って湧いた事実に便乗。昨夜ニュースを見ていて頭を傾げたくなるような記録を知った。今年の夏の平均気温が何と岡山市が全国一位なのだそうだ。一瞬あれっと思ったが、恐らく平均気温と言うところがみそなのだろう。最高気温なら前述の2つの街がダントツだろう。ところが平均気温となると岡山市大阪市が同じ温度で全国一位らしい。そう言われてみるとなるほどと頷けることもある。まずこの夏、僕は数滴の雨に当たっただけだ。瀬戸内沿岸の降水量は平年の1割にも満たないとニュースで報じていたが、まともに雨が降ったのを覚えていない。数日前どこかの町を襲ったであろう夕立の雨が風にのって数滴運ばれてきただけだ。雨が降れば気温を一気に下げてくれるが、それもないとなると気温は1日中高止まりだ。その為に平均気温が高いって事になるのだろう。夏の初め、駐車場代を倹約しようと市内を歩いて頭がふらふらしたのも頷ける。  最高気温ほどインパクトがないためか、平均気温日本一を教えてあげても誰も喜びはしなかった。寧ろその記録を迷惑がる人ばかりだ。ただ誰もが経験のない暑さだったらしく、各々が一つ二つ蘊蓄を披露した。その中で興味深かったのは若い漁師が教えてくれた内容だ。  牛窓港の沖、海面下2メートルのところに水温計を設置して毎日水産試験場が計測して情報を流しているらしいのだが、今でも水温が30度あるらしい。30度と言えば恐らく何の準備体操もなく、身体に徐々に水をあてて海に入るような作業なしで飛び込める温度だと思う。海の中だと暖かいと感じる温度だろう。そんな温度では魚が海面に上がってきたら死んでしまうだろうと言った。そうなのか、魚が死ぬ水温を、又その水温を保つだけの気温を僕たちは経験しているのだと、あらためて知らされた。このままだと冬には魚が獲れないと心配顔をする漁師に、例の便乗話など出来ない。一気に話が深刻になってしまった。 今年の笑い話が来年も又笑い話で済むとは限らない。着実に進行している自然からの反撃を免れる人と直撃を食らう人がいてはいけない。免れるならすべての人が、直撃ならすべての人がが望ましい。幸運を掴み損ねた人達は捨て石ではない。路傍の石ではあるが捨て石ではない。