主語

 「みんなが言っている」ほど当人が言っているだけを伺わせる言葉はない。僕はその言葉を聞いたら、本人の思いと受け止めている。それもほとんどが否定的に用いられる生産性のない言葉だから、当然その人の評価は落とすことになる。 この言葉を最近こともあろうに政治家の口から聞いた。意識して聞いていたわけではなく、夜のニュースで偶然耳に入ってきた。僕にとっては使いたくない言葉の中の一つだから余計耳についたのかもしれないが、どの政治家が口走ったのか知りたくてわざわざ画面を確かめた。予算委員会?の中での追求の場面だったと思うが、自分の心の中をあたかも世論のように表現するのはずるい。潔くない。まるで根拠を示さなくても許されるようなその言い回しは余りにも幼稚だ。まるで子供が言い争っているようなものだ。  根拠を示さなくても物事が進んでいくとなると気楽な世界だ。口から出任せを言っておけば優秀な官僚がつじつまを合わせてくれるのだろうか。「みんなが言っている」を乱発され、若者が人殺しの訓練を受けたり、税金を絞り取られてはかなわない。少なくとも国民の税金をあずかる者が、便利な言葉で自分の下心をオブラートに包んで飲み込ませてはかなわない。  都合のよい言葉を往々にして使うときは、都合が悪いときだ。身に覚えのあることを隠しながら相手に迫るときに使う常套手段だ。どこか後ろめたさを感じながらつい口からでてしまう。主語から偽装されては後に続く言葉では挽回できない。主語一つで主張と思惑に分けられる。