吐露

 これは漢方薬の限界を超えているから、医者に行って血圧の薬をもらった方がいいよと言うと、渋々行ってくれることになったのだが、処方せんを持ってきてもいいかと言う。僕の薬局も一応調剤薬局だから構わないのだが、わざわざその為だけに又岡山市から来るのはもったいないから、門前薬局でもらったらと言うと「ああいうのは嫌いじゃ」と言う。 鬱々とした心が3日分の煎じ薬で効くから時々落ち込んだら漢方薬を取りにやって来る男性だが、血圧の薬は何処でもらっても同じだ。飲めば下がる。何でいやなのと尋ねる前に彼の方から説明してくれた。体重が90Kgを越えて頭も薄いから一見恐そうに見えるが、実はかなりの気配り人間なのだ。薬を待つ間でも、自分はウツ傾向なのに他の方がいるとつい話しかけて機嫌をとってしまう。かなりナイーブなのは良く分かる。そんな彼に若い薬剤師が色々質問攻めにするらしい。「一杯喋られても分からないし、そのくせこっちが尋ねれば紙に書いているから読んでみてくださいとか、医者に聞いてくれなんて言うだけだから、めんどうくさいだけじゃ」と言う。なるほど僕の薬局では、99%は雑談だ。薬の話はほとんどしない。彼は恐らく何の漢方薬を飲んでいるかも知らないし、知りたくもないだろう。リストラにあった先輩の分を含めて一気に仕事量が倍になったのが発症のきっかけらしいが、その話題にも勿論触れない。僕がその仕事の一部を肩代わりできるわけではないのだから、分かったような顔はしない。 ある医師が、そろそろ薬局も門前から自立したらと述べていた。そもそも僕の場合、門前になったこともないから自立もへったくれもないが、いつもスタンスは薬局に来てくれる人達の方に置いているつもりだ。門前だとどうしても処方せんを出してくれる医師の方に向いてしまうが、その点僕は自由だ。だからこむつかしい薬の説明よりも、楽しい、いや、ばかばかしい話に終始する。患っている人が治療に専念するのはマイナスだ。それよりも一瞬でも病気を忘れた方が治りやすい。薬の話をしない薬局は失格かもしれないが、血圧が上がるマル秘の理由まで吐露できる薬局なら許して貰えるだろうか。