ひんしゅく

 どちらが高すぎるのか安すぎるのか、滅多に買い物をしない僕には分からない。ある店では高すぎて驚いたし、ある店では安すぎて驚いた。  今日文房具店とホームセンターに寄った。文房具店では領収書を買うだけの用事だったのだが、時間をもてあましていたのでぶらぶらと店内を回遊した。いつからこの種の店に来たことがないのか思い出せない。それでもまだ真面目に勉強していた高校生時代が最後だろうか。そもそも嘗ては文房具店はこんなに大きくはなかった。そして今日見たように華やかでもなかった。ほとんど実用品の範疇に入るものばかりが売られていたような記憶しかなく、遊びの要素は、ましておしゃれの要素などは皆無だった。そんな先入観でしか店に入っていっていないので、色々な小物の多さにまず目を見張った。そして僕が日常毎日のように薬の問屋さんから頂いている文房具が結構高いことを知った。こんなに高いものを毎日彼らは持ってきてくれていたのかと正直驚いた。  勿論問屋さんが意味もなく文房具の小物をくれるわけではない。必ず薬の説明書や宣伝と対になっているのだ。新製品が出たときや、季節商品の季節が到来したときに宣伝を兼ねてパンフレットと一緒にくれるのだ。余りその小間物の名は分からないが、ボールペン、セロテープ、ノリ、定規、ハサミ、メモ用紙、ホッチキス、ポイントイット?バインダー等々。これらを毎日数社のセールスが持ってきてくれる。僕はメーカーが日本中の医師や薬剤師に配るのだから恐らく10円か20円くらいのものだと思っていた。さもないととんでもない金額になるだろうから。ところが今日文房具店で見た値段は、どれも200円から300円の間のものばかりだった。こんなに高いものを毎日頂いているのかと、これは認識を新たにしないといけないと思った。と言うのは僕はそれを毎月集めて、月末に5個ずつセットにして薬局に来てくれている人達に末等景品として渡していたのだ。僕としては毎月何十人分も作れるから便利な存在だったのだが、くじでそれらを当てたひとには、ごめんねハズレでといちいち謝るようにして渡していた。ところが何故か、ほとんどの人が結構喜ぶのだ。もう10年くらい毎月やっているから、文房具セットをそれこそ何十回も持って帰った人は多い。それなのに何故か喜んでくれる。でもその不可思議だった「受け」の意味が今日解決できたような気がする。僕がしめて100円くらいに思っていたそれらの末等景品は普通に買い集めると1000円を超えていたのだ。ならそれより高額だと思って上位の景品にしていたものの方がはるかに安かったという逆転も延々と続けていた事になるのだが。 もう一つは、ホームセンターで買った背もたれのある事務椅子。事務椅子と名を付けていたからそう書いたのだが、実際使うのは相談机で僕と向かい合う席。今までは背もたれがない丸椅子で、壁に近い所に腰掛けてもらっているから「壁にもたれて」と僕は声をかけていた。でも壁は垂直だから結構しんどいだろうし、又品もないように見えるので皆さんもたれなかった。そこで年の変わりに椅子をはりこもうと意を決して乗り込んだのだが、なんとこれが998円だった。そのあまりの安さに不安になり拡げて腰掛けてみたら結構座り心地はいい。僕は木の丸椅子の感触を覚えているからとても998円の座り心地には思えなかった。もっと価値あるものと思ったし、そもそも僕が予想していた値段はその10倍くらいだったのだ。 差し上げているものが実は結構価値があったことに気がつき、買ったものが予想の10分の1。今日は偶然自分にとって都合の良い数字だったが、滅多に買い物をしない僕にとっては目から鱗だった。毎日のように沢山買っているひんしゅくだけでは、世の中測れないと知らされた1日だった。