必需品

 薬剤師の?僕の?隠れた必需品はカッターナイフだ。いつの頃からか必ず僕の胸ポケットに収まっている。毎日いくつかの会社から薬が送られてくるからまずその梱包された荷物のガムテープか紐を切るのに必要だ。鋭利なカーーターナイフはハサミより数段便利だ。次にこれ又毎日送られてくる封書の数々。開封するには必需品で、ハサミより綺麗にゴミを出さずに開けることが出来る。又鉛筆を削ることも出来るし、紙を目的に会わせて綺麗に切ることも出来る。こういった作業は1日に何度もする。その都度胸ポケットからナイフがお出ましになる。 ところがこのカッターナイフがこの数ヶ月一本が行方不明になり、もう一本は母が大きなダンボール箱を切るのに使ったらしくて、刃のほとんどを失ってしまった。決して捨てるはずがないからどこかにあるだろうと思って、又替え刃もどこかにあるはずだから、買うことを躊躇っていた。いや買うなどと言う判断はその状態では僕にはあり得ない。不便だけれど必ずどこからか出てきて以前のように毎日重宝に使えると思っていた。  今日、行きつけのスーパーの文房具コーナーでのんびりと最新の文房具を眺めて楽しんでいた。するとカッターナイフが売られているのを見つけた。10年以上使っている僕のと何ら変わりない、機能的なものだ。僕は1000円はするだろうと思って倹約していたのだが、何と値札が252円となっていた。決して安売りを標榜するスーパーではないから、粗雑なものだとは思わない。恐らく今まで使っていた切れ味は保証されるだろう。ただこの安さは尋常ではない。全てのものがどんどん安くなっているがこんなものまでほとんど価値を認められていないかのような値段で売られているのは、僕にとっては愉快ではなかった。僕の必需品が252円とは、僕自身の値段がその程度のように思えた。 あんなに便利なものを252円で作る人達や会社は大いなる評価をされているのだろうか。人の手を要しない産業用ロボットが作っているのだろうか。それこそ梱包から販売、宣伝、開発と、人の手でしかできないところを担っている人達の生活の保障は充分されているのだろうかなどと、一庶民にとってはどうでもいいようなことがしばらくの間、気になった。  新しいカッターナイフのおかげで、再び便利な仕事の環境に戻れるのに、余りにも人を馬鹿にしたような値段に気が重くなった1日だった。