鉄槌

 「一番先になりたい者は、すべての人の後になり、すべての人に仕える者になりなさい」1月くらい前に、声をからして走り回った人達に教えてあげたいようなある方の言葉があるが、僕はこれなら守れそうだ。いいことを教えてもらっても、なかなか実行できなくて、出来ないこと自体がストレスになるのだが、この程度なら出来そうだ。と言うより、僕など楽だからいつもこうしている。本能的に自分を守っているのかもしれない。「一番先になりたくないから、すべての人の後になり、すべての人に仕えている」が、運のいいことに、こちらが仕えようとしても断られるくらい肌が合わない人がいるから助かっている。こちらが仕えないなら教えに背くが、断られるのまでは非難されないだろう。 何事も、この程度の逃げ道は作っておいた方がいい。逃げ道だらけも困るが、退路を断ってまでの生真面目さでは、ことを為し遂げる前に断崖から落ちてしまう。良くしたもので、一番先になりたい者は、この種の逃げ道や逃げ口上はけだし得意としていて、反対にすべての人に仕えることをいとわない人達に限って、退路を断つ。不愉快なのは他人の謙遜さえ踏み台にして一番先になりたがる者が目立つことだ。もっと悪質なのは、ものばかりでなく他人の幸せや命までも奪って一番先になりたがる。  夏の終わりの出来事は、謙遜を忘れた人達に謙遜でしか生きていけない人達の下した静かなる鉄槌だと思う。