教頭先生

 夏休みの朝の運動場は、僕と雀とツバメとカラスの独占だ。別に悪戯をしているのではないが、僕が近寄ると雀の集団が一斉に飛び立ち場所を移す。伸び放題の雑草の中から飛び立ったと思うと、鉄棒の上に止まり、サッカーのゴール、野球ネットの上と場所を移す。逃げまどうのではなく、まるで僕を案内しているかのように先回りする。2回目の子育てが終わったツバメの巣を脅かすカラスも、今はのんびりと共存している。低い声で威嚇する必要もなく、電線の上で一休み。 雨が多いせいか、草の勢いが止まらない。土を這うようにしていた草は今では高いもので僕の膝上まである。遠慮がちに運動場の隅を囲うようにして生えていたが、今ではトラックの近くまで進出している。人の足で踏まれることがなければいくらでも勢力を伸ばしそうな勢いだ。いっそのこと全てを覆い尽くしてみれば草原に生まれ変わるのにととんでもないことを考えている。  偶然、以前牛窓中学校の教頭をしていた方の奥さんと会ったことがある。中学校前にある僕の薬局を知っていたので話が盛り上がったのだが、何度も中学校を訪ねたことがあると言う。なんでも日曜日になるとご主人に連れられてきて、中学校の草取りをしていたらしい。僕もいつからか気がついていたが、授業が行われている時間帯に教頭先生が校舎の内外の草取りをしばしばしているのだ。理由を奥さんから教えてもらった。僕らの時代には何処の学校でもいた用務員が今はいないのだ。だから行き届かないところは教頭先生の仕事にいきおいなるらしい。余程草の勢いが強いのか、ご主人が熱心だったのか分からないが、毎週訪ねてきては草を取ってくれていたらしい。見えないところで、奉仕していた奥さんの照れ隠しの笑顔は、どこかしら誇らしげでご主人への評価のようにも感じた。  生徒のいない学校を、朝夕独占使用しても不審者には見られないみたいで、田舎独特の居心地の良さに感謝。もっとも飛ぶ鳥を落とす勢いなど微塵もないから飛ぶ鳥でさえ警戒してくれない。哀しいかな完全に安全パイ。