誰でも

 誰でもいいのではない。小さな命ほど守らなければならない。何処にでも暮らしているようなごく普通の人は守られなければならない。大きな力で守らなければならない。大きな力が守ってくれなくなれば、小さな力同志で守り合わなければならない。最後の鎖を自分で切ってはいけない。そこより先に進んではいけない。決して踏み込んではいけない場所がある。逆に踏み込まなければならない場所もあったはずだ。 起こらなくてもいいことはいっぱいある。起こったことには理由がある。理由は個人の力をはるか越えていることがある。個人のせいにしたら何も問題は見えず、解決も防ぐこともできなくなる。救いの手を差し伸べるべき人がはしゃぎ回っている。幸運は欲も得も手にしようとする人達に容易に集まり、生きているだけの人達には巡ってこない。決まりに守られる人達が決まりに縛られる人の決まりを作る。自由は自由に生きることが出来る人達に門戸を開き、不自由な暮らしに耐えている人には扉を閉ざす。勝手は都合の良い人にはおおらかで、招かれていない人には過酷だ。  濁流に沈む人に浮き輪は届かない。落ちる前に柵は立てられなければ。時として歓声は悲鳴を消すために上げられるのか。打ち上げられた魚、羽を傷つけた鳥、ハシゴのない暗くて深い穴で息する人。