脱力

 こんなに男同士の兄弟でも仲がいいのかと思わせる一こまだった。  薬局を閉める時間帯に、若い二人の男の子が入ってきた。鎮痛薬がいるらしくて最小包装のものを出してあげると、あまりの安さに驚いたみたいで(210円)用意していた札を引っ込めて500円玉で払おうとした。出来ればおつりを綺麗にもらおうと思ったのだろう、後ろにいた男の子に「車から10円取ってきて」と小さな声で指示した。何となく薬局に入ってきたときにうさんくさかったので、その言い方が優しかったのに驚いた。恐らく弟にあたる方が駐車場に出ていっている間に、誰が痛み止めを飲むのか確認したらおばあちゃんらしい。二人で、おばあちゃんの薬を買いに来ているのだ。 服用方法を書いて渡すと、二人がそれぞれ「ありがとう」と言って出ていった。エンジンを掛ける音が聞こえたから車で来たみたいだ。二人は僕と同じ町に住む漁師の息子さん達だ。父親そっくりの顔をして、おばあちゃんが70才と答えたからすぐに分かった。幼いときには通学途中よく見かけていたから何となく面影が残っている。よその子は早く育つもので、大人の入り口にたち、もう車の免許が取れる年になっているのかと感慨ものだ。 時々このように子育て上手がいる。決してその様に見えないお父さんだが、大したものだ。ひょっとしたらお母さんの力かもしれないし、おじいちゃんおばあちゃんの力かもしれない。兄弟は決してスマートなコミュニケーションとは言えないが、心温まる雰囲気を醸し出す。クールな家族関係の我が家の対極に位置する。幸せは色々な形で存在する。ほっとする脱力系の幸せの形かもしれない。