店員

 だめで元々と思い電話した。肩こりで風呂は欠かせないから、今夜入れないとなるとかなりダメージだと思っていた。灯油がないことに気がついて電話したのは、ガソリンスタンドが閉まる5分前だった。案の定、断られて、それはそうだと素直に受け入れていた。翌日配達してくれるらしいから諦めもついていた。  ところが、30分くらい経ってから灯油を入れましたからと店員さんが薬局に入ってきた。勝手を知っているから先に灯油を入れてから集金してくれるのだ。これには驚いた。まさに狐につままれるとはこのことだろう。僕はあまりのうれしさに薬を作っている途中だったが調剤室から出ていってお礼を言った。いつものようにさりげなく入ってきて、さりげなく帰っていったが、この店員さんがかなりのストレスを抱えていることを知っている。色々な困難を抱えながらも一生懸命働いていることを知っている。元々の性格か、その抱えているものの故か、笑顔が少ないことが気になるが、わざわざ自分の時間を削って灯油を入れに来てくれた優しさに何か応えられるとしたら、幸あれと祈るくらいなものだ。  何億円ももらっている人達の集団があるスポーツで世界一になったと言って喜んでいる。僕には何の感動もない。寧ろ、黙々と抱えているものの重圧と戦いながら働いている一市民に、スポットライトがあたることを期待する。そんなヒーローは全国いたるところに一杯いる。今もどこかでヒーロー達は黙々と懸命に働いている。