路地

 やっと、同じような考えを持っている人の言葉を耳にした。なぜ、どうして、と思いながら医者でもない、学者でもないから自説を恐る恐る、少数の人だけに向かって薬局内で話していた。  学校はもとより、職場でもインフルエンザが流行っているとよく聞く。確かにマスクを取りに来る人も多い。移されたくない側が懸命に防御している姿が目に付く。今年に始まったことではないが、タミフルに耐性を持ったインフルエンザウイルスが蔓延し始めた。医療を単なる商売と考えている製薬会社や医師のせいだ。インフルエンザくらい江戸時代でも治しているのに、やたら恐怖心を煽り高価な薬を服用させる。肝心の新型インフルエンザが流行ったときには効き目がかなり落ちているのではないか。インフルエンザくらい、解熱剤で熱を機械的に取るか、漢方薬で発汗させ熱を取るかして寝ていれば治ると思うのだが、果たして手厚すぎる治療が何をもたらして、何を奪っているのだろう。自助努力が出来ない依存症的な患者を増やすか、将来パンデミックの時に治るべき人達を地獄に引きずり落とすかくらいなものだろう。ここに来てやっと、タミフルの使いすぎが報道されるようになった。  今日、耳にしたのはもっと進んだ見解だった。漢方薬を持って帰る間際に、ある女性が教えてくれた。その女性は、山陰に旅行に行くために元気が出るお気に入りの薬を取りに来たのだが「先生に、インフルエンザの予防接種はしてあげない」と言われたそうだ。主治医は女性らしいが、「80才を越えていたらしてもいいかな」と言ったらしい。僕は、この逆のことばかり聞いていたので耳を疑った。そして詳しく尋ねてみた。女性はもっともその辺りは訳が分からなくて、ただ、注射をしなくていいのを喜んでいた。  インフルエンザの予防接種が必要なのは、重症化するかも知れない人々だ。幼児や介護施設などで寝たきりの人だ。それ以外の人は、むしろ自分の体力で治した方がいいと思う。自然に備わっている免疫力で病気は治した方がいい。治しながら強くなれるから。何でも助っ人を頼んでいたら自分が強くなるチャンスがない。温室で快適に暮らし、元気ですと言っても誰も評価しないだろう。凍り付く路地で育った野菜なら、人はその生命力さえ頂こうとする。人間も動物も植物も同じだと思う。今を生きている人が数日の不快を逃れるためにせっかくの武器を無能力化するのはもったいない。来るべき有事に温存しておくものは温存するべきだ。人の叡智も商業主義には勝てないのか。今も昔も、ここもあそこも所詮同じか。お金以外の動機がどんどん痩せこけている。厳冬の路地でけなげに咲く花もあるのに。