怪我の功名

 僕が今もっとも沢山作っている処方は、一昨年僕自身が救われた処方だ。それまでにもある程度の人数は使っていたが、今は数段の差がある。まさか自分が飲むとは思ってもいなかった。ゆっくりとくつろぐことが苦手で、忙しいことを楽しむ性格の僕でも、さすがに限界を超えての仕事はダメージが大きかった。当時、気持ちがハイになっていたから疲労などは全く感じなかったけれど、一段落してからが本番だった。想像を越す倦怠感と何処にも逃げることが出来ない焦燥感に参ってしまった。それを解決してくれたのがまさにあの処方なのだ。以来、多くの方に飲んでもらっている。病名をあげると医師法違反になるから具体的には言えないが、現代に蔓延している心の病気によく効いている。僕は、今はもう飲まなくなったが、当時はとても美味しかった。  過敏性腸症候群の薬ではないが、過敏性腸症候群が治る薬でもある。生きにくさを背おって懸命に頑張っている人達にとても好評だ。まさに怪我の功名だったのだ。過敏性腸症候群は、治らないと諦めている人がとても多い変わったトラブルだが、僕はその様に感じたことはない。お腹の中の環境を整え、肝っ玉を強くすれば治る。どちらが欠けても治らないと言うことでもある。  僕は単なる薬剤師だから、あくまで薬で治すのだが、薬だけでも治らないのも事実。ただ、優しい言葉、見え透いた慰め言葉は使わない。カウンセラーでもないからだ。お互いに事実に近づける言葉をやりとりし、原因を探っていく。キーボードを叩けば便利に答えが出るようなものではない。泥臭く不器用に共同作業を続けるのだ。その結果が時として人を救うのだから、ない頭をひねり、胃袋を痙攣させる価値がある。治せないジレンマと治らないジレンマが旨く協奏曲を奏でたとき、舞台に幕が下りる。そして幕が再び開いた時、もうそこには嘗ての苦悩はない。