青春

 このなんともいえぬ心地よい笑顔が、人間が他者との敵対心を取り除くために作られたものなら、彼女のそれは天下一品だ。正面に対峙して体調を聞くのも心地よかった。ただ、そのことが僕の処方に決定的な判断をもたらしてくれ、結果的にわずか2週間でほぼ完治してもらうことができた。  二十歳を少しばかり回っただけなのに、逆流性食道炎過敏性腸症候群で苦しんでいた。前者は3年、後者は1年だが、服用している薬が僕には解せなかった。前者は、こんなに胃酸の分泌を抑制ていいの?後者は今日の下痢を物理的に止めて、明日も明後日もまた同じことをするの?と言う疑問だった。逆流性食道炎過敏性腸症候群も治る治療など全く行われていない。これだと人生の素晴らしい時期を病人のままで過ごすことになる。  漢方薬のいいところは、今現在の不快症状を取りながら、根本療法もできると言う点だ。これは現代医学と圧倒的な違いがある。現代医学は、不快症状を取ることには長けているが、病気から脱出するのはあくまで本人の残された力頼りだ。その力があれば根本的に治ってしまうが、それがなければなかなか完治しない。漢方薬自然治癒力を増すような生薬が必ず入っているか、入っていなければ入っているものと組み合わせる。だからわずか2週間で完治した。  2週間目に薬を取りに来た今日、7割くらい楽になりましたとすぐに教えてくれた。それだけでも嬉しかったが、念のため最初に相談を受けた症状をチェックすると全て治っていた。「治っていますね」と自分でも驚いた様子で訂正した。恐らく自分でこんなに早く治ると思っていなかったのではないか。そんな表情をしていた。いやひょっとしたらもう治らないのだろうかと諦めていたかもしれない。  同じ県内の人が牛窓方向に来るのは難しい。いかにも田舎に行く方向だからだ。ほとんどの需要は県の中心部に向かって満たされるから、逆方向に勇気を振り絞ってきたのかもしれない。「あなたの笑顔はとても素晴らしいけれど、その笑顔のために、沢山の気持ちを押さえ込んでいるのではないの?」と僕が質問をした瞬間涙が溢れた。勇気を出して田舎の薬局に相談してくれたこと、僕に全てを悟らせる涙を隠さなかったこと、その二つが彼女の青春を取り戻した。