川の流れ

 過敏性腸症候群を治すことが難しいのは、発症から何年もたって相談に来られるからかもしれない。そういった方はほとんどが、いろいろな治療を受けた後だから、もう治らないのではないかと言う先入観でやってくる。症状に対して知識も多いし、治療法にも詳しい。眉唾みたいなものにも多く手を出して、もうこれ以上頼るものがないと言った状態で来る。わらをもつかむ思いでやってくるから、僕は最初からわらだ。おぼれかけている人をわらが救ったりしたら大変だ。  この町の過敏性腸症候群の人を治すのは簡単だ。症状を聞いて1週間分薬をつくり、改善の度合いにあわせて工夫すればいい。過敏性腸症候群なんて病名は必要ないし、知らない方が治りやすい。過敏性超症候群が治りにくいものなんて認識がないから、彼らには特別なトラブルではない。風邪を治すように治せばいいのだ。  今日、県外の女性が2週間分でほとんどの症状が治った。「ゆるゆる飲んだ」のに治った。本人がとても不思議がってくれた。治らないと思っていた人の喜びようだ。単純に喜んでくれればいいのに、喜ぶのにも躊躇している風だった。中学校から引きずっていたのだから、その気持ちは分かるが、やはり治るものなのだ。  過敏性腸症候群も治るんだって所からすべてが始まらないかなとつくづく思う。もしそうなればもっともっとなおる人が増えるだろう。上流に向かってボートをこぐのがこのトラブルの治療だ。川の流れにのって、ボートをこげたらどんなに楽だろうかと思う。今日電話で話した女性も、もっと昔に僕の薬局を知っておけば良かったと言ってくれた。僕もそう思う。そのころ治っていれば今頃、彼女は歌手か女優になっていたかもしれないから。