オリオン座

 体調を崩したおかげで朝陽に向かって歩き1日を始めることが出来、オリオン座に向かって歩き1日を終えることが出来るようになった。長い間、太陽も星も存在しなかった。こんなに自然に恵まれた土地で暮らしながら、触れていたのは人工のものばかりだった。肌は衣服で隠し空気に触れることもなかった。心は鉛で覆い、善意の照射から待避していた。溢れる海面に恐怖したが、手ですくって飲んでみようとは思わなかった。段々畑を転がり落ちる人情を、体を張って止めようとはしなかった。巡る季節をただカレンダーに貼り付けて、数字や色に変えていた。後悔は丘よりも高く積み上げられ、放心した飼い犬が汗くさい手のひらをなめ回す。終わりのない始まりにとまどった青年は、いつの間にか始まりのない終わりに恐怖する。朝陽に向かって歩くときには希望を、オリオン座に向かって歩くときには安らぎを。そう願いながらひたすら歩く。せめて足跡だけは残さないように気を付けながら。