しばしばやってくる人が2ヶ月も来ないとなると本当に「お久しぶり」だ。薬局には結構常連がいて、僕が帰ってから30年、何かと利用してくれる人がいる。ほとんどお気に入りの薬があるからきてくれるのだが、その人もお気に入りの風邪薬がある。男所帯だから、風邪を引いて寝ても誰にも看病はしてもらえない。だから風邪などにも結構神経質で、おかしいと思ったらすぐ対処する。仕事が終わったらすぐにパチンコ屋に行き、勝っただ負けただを何十年繰り返している。唯一の趣味かもしれない。病気に神経質なのと釣り合いがとれていないように見えるが、ストレスを発散しているのだろう。  久しぶりだから余程元気だったのだろうと思い「元気そうだね」と声をかけた。すると入院していたという。癌が出来て、放射線療法と抗ガン剤を併用していると言っていた。なるほど、衣服で隠れているが確かに痩せて見える。放射線を当てているという箇所は皮膚が黒く薄汚れているように見えた。対峙していると否応でも目につく。一見、怖そうな風貌をしているのだが、さすがに今回は肩が落ちて威勢がない。幸運にも抗ガン剤の副作用が意外と少なかったらしく、頭髪も十分ある。注意してみなければ分からないくらいだ。 もうすでに職場に復帰している。前からしんどいが口癖だったので、今更しんどいと言われてもすぐさま同情は出来ない。それよりも医学の進歩にとても驚かされる。彼は癌が見つかって1ヶ月なのに、もう働いている。それもフルタイムの肉体労働を。息子がいつか「癌は早期だったら皆助かる」と言っていたが、なるほどなあと思う。癌と診断され、投薬を受けたりしながら働いている人も結構いる。考えてみれば、高血圧や糖尿、その他諸々の病気と何ら変わりない。嘗ての常識で特別視してしまうのだろうが、これだけ増えてくれば、その病気に慣れてくる。まして、自分で病名を言うくらいだから、秘め事ではなくなった。あからさまに言える病気、対処できる病気になったのだ。癌の恐らく最大のリスクは加齢だろう。みんなが長生きをするようになって、特別なハンディーというものがなくなったのかもしれない。誰もが長生きをする時代になったから、誰もがこの病気になる確率が高くなったのだ。  「もう、パチンコから足を洗うの?」と尋ねたら「止めるもんか」とすぐさま返事が返ってきた。それはそうだろう、今更仙人のようにきたら寿命が縮む。そう、これからこそ、らしく、○○らしく生きねば。人生気取って生きるほど長くはない。