作曲

 決めた。今日貴女と会って話をしているときに決めた。僕は薬剤師を辞めて歌手になる。貴女が作曲してくれる唄を歌う。貴女のデビュー作品にしてください。出来るだけ軽薄で、根っから明るくて、誰もが親しみを覚える歌詞を考えますから、売れるような曲をつけてください。大学で作曲を学んでいる貴女の助けがあれば、この僕でも何とかなるのではないでしょうか。そうなればバラ色の人生が待ち受けています。お金も名声も手に入ります。念のために今からサインの練習もしておきましょうか。  どうですか、この不愉快な文章。僕には耐えれません。貴女が自分にないものをあげたとき、そのないものこそが貴女の素敵な個性だと言いましたね。貴女にないものを備えている人なら、この文章のようなことを平気で口に出すことが出来るでしょう。僕は、貴女があげた自分の欠点こそが、貴女の魅力だと思います。明るく振る舞うこともありません。正直に振る舞えばいいのです。悪い噂を恐れてはいけません。人は内容よりも噂を流している人を評価しますから。人に無分別に合わす必要はありません。合わないところがあるから個性なのです。僕や僕の家族が、貴女と楽しい時間を持てたことが全てを表していると思いませんか。クリもモコも貴女を歓迎していましたね。モコはともかく、クリが何ら警戒することなく貴女の手をなめたのには驚きました。  貴女が憂いている症状が実際にはないことは明白です。後は僕の漢方薬で貴女の肝っ玉がすわること。今日話した内容を精査し科学的に判断する癖をつけること。それで治ります。貴女がいる間、僕は何度「もったいない」を繰り返したでしょう。外部から入ってきた間違った知識で何年も苦しんだのです。僕や貴女と同じ苦しみから脱出した娘の体験談がこれからの貴女のこのトラブルへの認識の役に立てれば幸いです。敵は自分の心の中にいますから、正しい知識で立ち向かわないと勝てません。貴女はもうすぐ治ると感じた僕はちょっと楽天的ですか。帰りの電車のなかでもう治りませんでしたか。  貴女が有名になったらサインをくれる、これは覚えておいてね。