待ち合わせ

 岡山駅の噴水の前で待ち合わせた貴女を見つけたとき、小さな旅に出た少女を迎えに来たような気がした。体には大きすぎるようなリュックを担いでいる貴女を見たからだろうか。何を詰めてやってきたのか分からないが、大きいリュックがひしゃげているから、詰めるものはたいしてなかったのかもしれない。いやいや、目にはかさばったように見えなかったが、貴女はきっと、抱えきれないほどのトラウマをリュックに詰めてやってきたのだ。  1泊2日で、その背中に負ったものを軽くしてあげれたとは思っていない。貴女にとって、医学的な知識などどうでも良いのだ。知識で治るなら、医学書を読みあさればいい。貴女にとって、第三者の目も判断もどうでもいいのだ。貴女自身が、貴女に勝つことしか解放の道はない。自分を解放するのは自分なのだ。内なる自分との闘いは困難を極める。気の優しい貴女が独力でうち勝てるとは思えない。僕の漢方薬は、強いて言えば、貴女が自分を責めないこと、いつも戦いのモードで暮らすことを防ぐ処方だ。貴女が僕ら夫婦と一緒に笑い、食べ、、ドライブした時の「楽しいときの心と身体」を記憶して欲しいだけなのだ。 日付が変われば貴女は又、戦場へと帰っていく。しかし、これからの貴女には、少なくともダイヤルを回せば、貴女と同じように青春の落とし穴に嘗て落ちた僕に簡単に接続できる。過敏性腸症候群が治らないわけがないと信じ切っている僕に声を届けることが出来る。もうこれからは、1人で戦う必要はない。1人で戦って勝てるものではない。また、同じ症状の人同志でも勝てるものではない。  貴女が来てくれたから僕は丘から僕の町を眺めた。貴女が来てくれたから何十年ぶりに島に渡った。貴女が来てくれたからフェリーの上から夕焼けを眺めた。人の出会いって不思議ですね。僕は2日間、貴女だけのための薬剤師になっていたし、貴女は2日間、僕らの娘のようになっていた。  必ず幸せになってね。