突風

 一瞬にして外の景色が暗くなると、雪が水平方向に飛ぶ。どこから運ばれてきたのか段ボール箱が大きな音を立ててアスファルトの上を回転している。さっきまで春の訪れを感じさせる陽が照っていたのに、一気に真冬の中にいることを知る。飛んできたもの、飛んでいきそうなものを確保しようと外に出ると、瞬く間に白衣が冷やされる。今日はこのようなことを何度も繰り返した日だった。温暖な地方ではあまり経験しない冬の嵐だ。なま暖かい突風が吹く台風とは似て非なるものだ。北国の厳しさのほんの一端が分かる気がする。  豹変する天気のように人の心にも突風が吹き荒れる。体調が良ければベランダで陽光を浴びるような心模様でおれるが、苦しみを抱えている人の心は安定しない。強い意志で深いところに押しとどめる人も中にはいるが、それは極めてまれだ。感情が地球の穴から吹き上がる。憤怒は雨で冷やされ湖底に沈殿する。誰もが等しく健康でいられたら、春を待つ電線が唸りをあげることもないだろうに。