映画

 何回観ても飽きない映画がある。映画館に最後に足を運んだのはもう30年くらい前だから、僕にとっての映画とはテレビで流される映画でしかないのだが。  チャップリンの映画は別格として、日本の映画で「ウォターボーイズ」と言うのと、題名は忘れたが、同じような設定の女子高生がジャズバンドを作って大会に出るまでの過程を描いたものがある。この二つはそれこそ何回テレビで再放送されても観てしまう。制作者に参ったってところだ。こんなに人を心地よくさせることができる人の才能に驚く、いや、感謝ってところか。一度に多くの対象に感動を与えられるところが芸術家や作家、スポーツマンの才能だし、醍醐味だろう。そこが一隅を照らすのが精一杯の凡人と彼らの最大の違いだ。  何故あんなに観た後に心地よくなるのだろう。すがすがしさに心が洗われるだろう。数十年前の青春を追憶して、心を躍らせているのではない。自分の非力をおとぎ話で繕っているのでもない。今を生きる少年達に希望を与えられないことに免罪符を与えられるためでもない。やる気、根気、元気の3拍子を失った羨望からでもない。  心地よさの原因は恐らく、原作者や、映画監督の心意気が伝わってくるからではないだろうか。人間の善なる部分を根っから信じ、生きるってことは希望に溢れていると心の底から思える人が、その思いを作品で伝えようとしているところに感動するのではないかと思う。普通の人のありふれた成功劇でしかないのだが、低くたれ込めた暗い空を裂くようにして現れる太陽の光が、人生にも差してくると信じて疑わないで生きてと、創る側が創る行為自体で教えてくれているような気がする。混沌の中で成長する人達に、雨の日ばかりでないことを暗に気付かせようとしている気概が伝わってくる。作品の内容は勿論だが、作品を世に問う作者の気概にも圧倒されているのかもしれない。