情景

 業種別所得ってのが 発表されていた。興味はなかったがヤフーの表紙の部分に載っていたから目にとまった。上位にはなんと、金を動かすだけの職業が並んでいた。投資関係とかファンドとか、全く僕なんかの生活には関わりのない職業が並んでいた。それらの職業に関わらないと言うことは、循環する金の流れにも関わらないと言うことだ。日常会話に経済用語が上ることもなく、日常その種の人達と接することもないようでは、金とは縁遠いってことだ。まして経済ニュースで伝えられる言葉も理解できないようでは、金の奪い合いの土俵には上がれない。せっせとなけなしの金を貢ぐ方に甘んじるしかないだろう。  額に汗して働く、いやいやそんな生ぬるいものではない。僕の住む町で暮らしている人の多くが全身に汗をかき、肉体を変形するまで酷使し、得る報酬はどのくらいのものなのだろう。空調の利いた快適なオフィスで、パソコンに向かってキーボードをたたく人達の僅か何分の一を稼ぐために土にまみれ、潮をかぶっているのだろう。働くってことは人が動き回ることだと思っていた。ところが現代では働いているのは金の方だ。金が勝手に動き回って金を稼ぐ。  鬱積した空しさは、いつかきっと路地裏から表通りにあふれ出し、倒錯した価値観を後ろ手に縛り、高速道路を東進するだろう。振り返れば凍り付いた人の魂が、ガラス細工のように粉々に散る。落ちていく国の情景。