がむしゃら

7年前まで8年間、僕の薬局を担当していた大手製薬会社のセールスが久々にやって来た。その間山口県を回っていたらしい。一目見てすぐ彼だと分かり、久しぶりと挨拶したのだけれど、凄く老けたように見えた。学生時代サッカーをやっていた彼だから、15年前に僕の薬局の担当になって回ってきていた頃は、とても血色がよく、関西人特有のノリで楽しく商談していた。当時は医薬分業も進んでいなくて、彼らの守備範囲が薬局の業務の中心だったから、楽しく丁寧に応対していたと思う。  白髪を隠す為に染めているのだろうが、それも落ちかけていて、仕事がハードなのか、年を重ねて体力が落ちたのか、年令が僕に追いついてきそうだなと半分冗談で言った。商談はそっちのけで話をはじめると彼は当時のことをとてもよく覚えていてくれた。僕は言われてなんとなく思い出せるのだが、僕が掘り起こした記憶は申し訳ないが一つもなかった。調剤室にいる娘を見つけて、○○ちゃんですよねといった。小学生の頃の面影はないが名前を覚えていてくれたのには驚いた。よく薬局の中をうろうろしていたらしい。また、僕が作ったスポーツ少年団のサッカーの試合の審判まで頼んだり、彼が属していた草野球のチームの為に、僕が偽って牛窓のグランドを借りてあげたりしていたらしい。叉、母がガンの手術をするために入院する時の様子を僕が語ったことなどを詳しく覚えていた。  今ではこんな人間関係は築けないだろう。どのセールスとも商談の域を出ない。この独特の雰囲気がとても懐かしい気がする。のんびりとしたいい時代だったのかもしれない。1時間でも2時間でも世間話をしていく人もいた。昔話をするようになったらお終いですわと笑いながら彼は帰っていったが、僕はこの7年間で失ったものに気がつかされていた。がむしゃらと言う奴が向かうところが違っていたのではないかと。