局部麻酔

 これで3回目なのだが、慣れるってことはないのかな。まず、局部麻酔を飲まされる頃からもう緊張する。上を向いて飲むから、唾がたまって、歯医者と同じような不快感に襲われる。のどをごくごく鳴らしても飲みこんではいけない。3分間は意外と長い。時間を気にすると余計しんどくなるので、出来るだけほかのことを考えた。出来るだけほかのことを考えようとすること事態が、もうそのことに集中しすぎている。  のどを通る瞬間はやはりえずいた。オエッツ、オエッツと2,3回したらそれでも太い管は通る。通ってしまえば後はそれほど辛くないのだが、今回は気管の方になにか(さっき飲みこんだ麻酔薬か、泡を消す為に最初に飲んだ溶液か)が、詰まるような気がして数回咳きこんだ。ただ咳く神経は麻痺していなかったので助かった。これで気管支まで麻痺していたら大変だ。カメラが体内に入っている間、先生は「ゆっくり、大きく呼吸して、肩の力を抜いて・・・」と繰り返し言われた。看護師さんは、肩をずっとさすってくれていた。まるで幼子のような扱いだと苦笑した。ただ、言葉で励まされたり、スキンシップで励まされるのはとても有効だと思った。黙々と機械的に処置が行われるとしたら、おそらく患者のストレスは半端ではないだろう。  僕は胃にも全く自信がない。両親とも胃がんだし、毎日のストレスはかなりのものだし、食事は不規則だし、要は、胃を酷使している状態だ。毎回、もうそろそろなんて、出来もしない覚悟と共に病院に行く。偶然今回OKをもらったが、次は分からない。確実に毎年歳を重ねているので危険率は上がってくる。よし、今年こそは胃に優しい生活をするぞと病院の玄関を出る時には思ったが、車で移動しながら、10時と4時にサンドイッチをハンドル片手に食べながら、結局、その後4箇所で4つのことをこなした。  学生時代、むちゃくちゃな生活をしていたので、健康はその時から棄てているが、若さゆえの治癒力は大した物だったといまさらながら思う。街を歩く若者達を見ていても、きっと元気で疲れ知らずなのだろうなと思ってしまう。実際には職業的に不健康な若者を多くお世話しているからひ弱さも知っているのだが、さっそうと歩いている姿を見ると、気持ちのよい生命力を感じる。ただし、いずれ彼らも寝台の上で手を握られ、背中をさすられる日が来る。唯一の公平に向かって人は毎日歩きつづけているのだから。明日を思い煩う必要はないだろうが、今日に埋没しすぎも空しすぎる。