痛み

ご本人が耳が遠いと言うので、ご主人が付き添ってきてくれた。80歳前の夫婦だった。田舎は交通量が少ない為に、高齢になっても軽トラックを足替わりに良く使う。都会では危なくて運転できないだろうが、田んぼ道や裏道を走ればそんなに危険ではないのだろう。 80歳になってもちゃんとおばあさんをリードしているのはほほえましい。  さて、そのおばあさんは、病院で言われた病名をちゃんと覚えていて、脊椎間狭窄症と教えてくれた。腕のしびれと背中の痛みを訴えていた。僕は腰も心配だったし、頚椎ヘルニアももしかしたらあるのではないかと思ったので尋ねると、診断書にそのように書かれたいたのを覚えていた。  僕の薬局では滅多にそんな場面はないのだが、偶然3組の相談の方がおられて、しばらく待っていただいた。その間とても丁寧な言葉を頂いた。又相談が終わってからもまた丁寧なお礼の言葉を頂いた。働いて働いて、道具のように身体をこき使ってボロボロなのだ。そのあげくが現在の痛みなのだ。高齢の農家の方はとてもよく働く。痛いのを我慢しながら働く。僕と全く同じ症状だから辛さが手にとるようにわかる。その為に相談にも力が入って、大きな声になり、お蔭でおばあさんはおじいさんの通訳無しで全部こと足りた。大声で相談に乗っている時にふと僕は涙が出そうになった。痛みを抱えていて尚この礼儀正しさはなになのだ、痛みを抱えていてこの笑顔はなになのだと考えてしまったのだ。どうしてもどうしても治したかった。僕が苦しんだあの痛みを目の前のおばあさんが現在進行形で耐えているなんて許せなかった。なんとしても苦痛を軽減してあげなければ世の中不公平だろう。首も腰もつぶれた老婆が作った野菜を、心の痛みも身体の痛みも経験したことがないような人間が食べているのだから。