古都

今日の午後、突然尋ねてくれた若い女性がいる。僕は毎晩、彼女とメールをやり取りしているので、僕の中で彼女のイメージはかなりできあがっていた。ところが名前を名乗ってくれた一瞬に、築き上げたイメージを爆破されたような感じだった。僕がいただくメールの中で彼女のは群を抜いてマイナス志向の強いものだ。しかし、目の前にいる彼女は

ハンカチを哀しませないで 貴女の声は 真空の孤独の中でも 届く力を持っている 色は飾らないし 形は主張しない 黒髪から覗く瞳は 慈しみをあふれさせているではないか

風貌も表情も余りにも娘に似ているのに驚いた。妻が僕に、姉妹だと言っても通用するのではないのと言った。娘と同じ苦しみを抱え、8年の歳月を耐えている。8月にはそれを克服した娘が牛窓に帰ってくる。彼女が今日、帰りの長距離バスの切符を買っていなければ、泊まっていってもっと話をしたかった。3時間一杯話をしたけれど、それでは足りない。娘が帰ってきたら又訪ねてきてくれると思う。

光のないところに影はできない 届かないところがあるから 生きられる 光り輝く玉石よりも 路傍で焼かれる小石の方が 貴女の人生を 導いてくれるとは思わないか

いかつい漁師が買い物に来た。僕は彼に頼んで、彼女が腰掛けている椅子の後ろにひざまつかせ、彼女のいわゆるガス漏れを臭ってもらった。お尻から20cmのところで彼は鼻をくんくん言わせ神妙に臭ってくれた。おそらく彼の人生で一番屈辱的な行為だったろうが、一生懸命僕の要求にこたえてくれた。5分間で2回漏れたと彼女は言ったが、漁師の自慢の鼻でも分からなかった。嘗て大学病院にも行った彼女だが、さすがにここまでして治そうとはしてくれなかっただろう。抗ウツ薬でなんかでは治らない。泥臭いけれど、彼女の思いこみを1つずつ解明していくしかない。そのうち漢方薬で気がうまく巡れば完治する。

人を信じられなくなった僕を見てごらん 振り向く価値もないし 踏みつける値打ちもない 心の門を開いて 魂の奏でる美しい言葉をいただいて 歴史が乱舞する古都の夜明けを 激しく駆け抜けてみないか