廊下

悲しみが廊下を往来していた。日曜日だから、家族の面会が多いのだろう。重たい冬服を着ていても見舞い客は自由に歩けるし、笑いも出来る。シャバの空気を運んでも、浸透圧の通りには拡散しない。点滴に縛られた人がやせこけた足で面会に現れる。缶コーヒーを片手に慰めの言葉が空を切る。車椅子の中で眠っている子供。ステロイドではれたのかむくんだ顔をしている。車椅子を気遣って押す両親らしき人のゆっくりとした足取り。時を進めたいのか戻したいのか。焦点を失った青年に母親らしき女性が近づく。さっきまで険しい顔をしていた母親が、表情を崩す。母の無条件の愛は生活を遮断して子の上に注がれる。  大病院の中に繰り広げられる希望と絶望。コンクリートで直角に切られた断片を今日も丁寧に拾い集める人達がいる。悲しい風景は見たくない。悲しみが一つ減りますように。