娘の職場の近くに、親子の熊が出没したから気をつけるようにと連絡があったそうだ。又時々鹿を目撃するそうだ。田舎育ちの娘にとっても、さすがに鹿との遭遇は驚きだったらしい。  正月休みで帰省して久々に会ったが、少しは社会人らしくなっている。職場でのヱピソードを少し話してくれたが、若くて純真な働きぶりが伝わってくる。1日200人くらいを4人でさばいているから、優しく話しかけられないことのもどかしさに悩みがあるらしい。バスの時間を勘違いして、1時間の道のりを手押し車で帰りかけたおばあさんを追いかけたこと、狭心症と胃の薬を勘違いして逆に飲んでいたおばあさんのミスを気づいたこと、複数の目薬のさし方を細かく教えてあげたことなど、たわいもないことで感謝された感動の話を教えてくれた。  娘が、人生で今が一番幸せだといった。高校の時、突然過敏性腸症候群のガス漏れ症状で学校の校門がくぐれなかった子だ。信じて欲しい、過敏性腸症候群は治る病気(?)なのだ。娘だから特別な薬を作ったのではない。今送っている人達と全く真剣さに差はない。今が一番幸せと誰もが言える時が来る。苦しんだ分、喜びは例え様もないくらい大きいだろう。その感動を是非味わって欲しい。僕の苦しみも、娘の苦しみも、同じように青春の落とし穴に落ちた人のためになるのなら、生産的な苦しみだ。産みの苦しみなら青春をまんざら否定することはない。  最近、漢方相談で僕に接触して下さるかたの真剣さがとてもよく伝わってくる。ちょっと試しになんて方がほとんどいなくなった。これは体力に不安を抱え始めた最近の僕にとっては、とてもありがたい。おそらく僕が、悩んで悩んで一つの薬が出来あがるなんて誰も想像できないだろう。「はいこれ」ですむなら、こんな田舎の薬局は必要ない。都会の権威ある薬局で十分だ。カリスマ薬剤師がいる薬局で十分だ。  これから一杯知識を詰め込もうとしている娘に、いつうまくバトンが渡せられるか分からないが、いつでも、どんな場面でもしっかりとした視点で物事を判断して欲しい。常に自分を低きに置いた視点で。