スキンローション

 今では珍しくないのかもしれないが、男性用のスキンローションを開発した頃の話し。なにのためにつけるのか理解できない消費者に売れなくて苦戦した。そこでどうやって売ろうかと思案した挙句、男性モデルに大げさに瓶を振らせ、体中にドバッと振りまくような演技をさせ、それをコマーシャルで流した。するとそれを見ていた男性消費者は、自分もモデルのように男性ぽくなり、女性にもてるのかと錯覚し多いに売れるようになったらしい。  今も同じような現象が日々繰り返されている。コマーシャルはひたすらイメージを流しつづけている。消費者は何ら確認作業をせずに鵜呑みにしている。これが日常の単なる買い物の世界だけのことですめば別段気にすることはないが、政治、子育て、教育、医療など日常の大切なほとんどの領域で、検証を経ずに物事が企てられ受け入れられている。  人々の胡散臭いものを見ぬく嗅覚は急速に退化している。近所付き合いなど、近くの他人との交流は苦手なのに、見ず知らずの人間を無条件で信じてしまったりする。耳に心地よいスローガンに騙されて、自由をいけにえにしている。大切なものを剥ぎ取られていることに気がつかない脳天気な人間たち。いつ失ったものの大きさに気がつくのだろう。