バス

 過敏性腸症候群の若者達にわざわざ来てもらったり、泊まっていってもらったのは、早く治してあげたかったからだ。僕はどこにでもいる薬剤師で、カウンセラーでもないし、医師でもない。だから、彼らを慰めるようなことは得意ではなく、安定剤で抑えこむような力もない。  僕は彼らに一時の人生の避難所を与えているわけではない。彼らに、彼らの周りで起こっていることを客観的に理解することを学んで欲しいのだ。主観でこり固まって生きてきた歳月を逆戻りさせるのは至難の技だが、一つ一つ丁寧に一緒に分析していくと、鋼鉄のような思いこみが溶けてくる。彼らのバスはもう動いている。田舎の小さな停留所に降り立ったのは、避難ではなく、正々堂々と生きていくためのチョットした確認作業なのだ。彼らは引き返す為ではなく先へ先へと進むバスに乗りかえるために、僕の薬局に降り立ったのだ。