マッサージ器

 大きな電気屋さんに展示してあるマッサージ器に座っていい気持ちになっていたら、店員さんが傍に腰を下ろし、色々説明をしてくれ出した。中年のおばさんで、優秀な社員なんだろうとその電気屋さんが羨ましく思えた。商品に精通していたし、是が非でも売ってやろうという気迫を感じた。僕は電気製品は基本的には牛窓のあるお店で買うように決めている。だから饒舌な店員さんにどのように断わろうかと、途中からそればっかり考えていた。筋肉のコリをほぐしてくれるのはよいが、心が凝り始めていた。ただ僕は押しきられるようなタイプではないので、終わってからは相手の自尊心を傷つけない様にやんわりと断わってその場を離れた。  実は目的があって、その量販店に行き、マッサージ器に座ったのだ。最近、煎じ薬を作る機会が増えて、長い時間待ってもらう事が多いのだ。ちょっとした読み物は置いているが、本当にちょっと過ぎて、待ってもらうのが偲びないのだ。そこで考えたのが、マッサージ器。僕もバレーで体中を傷めて、毎日痛いところがないくらいガタガタの肉体をしている。プロの手技とまではいかないまでも、待ってもらっている間に少しでも楽になってくれれば嬉しい。僕も待ち時間を気にせずにゆっくりと漢方薬を作れる。日中はスタッフが充実しているから早く出来るが、朝晩は心もとない。  僕は決して漢方薬局を目指したことはない。しかし、薬局も地殻変動が起こっていて、調剤薬局、ドラッグの2極化が始まっている。僕の薬局みたいな何でも屋はなくなりつつある。事実この20年の間に、僕が属していたある研究会の薬局8軒中、4軒が廃業している。今僕の薬局を支えてくれているのは、どこに行っても改善しない人達だ。現代医学で治らない、高校生のバイトばっかりのドラッグでは、恐ろしくて薬は買えない。それなら選択肢としていわゆる普通の薬局しかないと発想してくれた人達だ。  修業中の娘がいつ戻ってくるのか分からない。それまで僕の体力気力が持つかどうか不安だ。体力と言うより軟骨力と行った方が僕にはふさわしい。首、肩、腰、膝、すべての関節部分の軟骨が擦り減っているみたいだから。ねじればギイギイ骨の悲鳴が聞こえる。  漢方薬局を目指さなかったが、それに近いような感じになっている。でも何を使ってでも治ればいいのだ。僕のためではなく患者さん自身の為に。ちなみにマッサージ器はいつもの牛窓のお店に今晩注文を出した。これでゆっくりと皆さんに待ってもらえる。ああ、このブログを読んでいる人の中に近所の人はいないから、読者の方には使ってもらえないな。