良い人

 「あの人は良い人だ」と口に出す場合、かなりの確率で「私にとって都合が良い人だ」と同意語だ。多くの人に受け入れられる「良い人」は、実はそんなにいるものではなく、雲の上の手のとどかないところにしかいないのかも知れない。  物事には陰と陽があり、両者がバランスを取って世の中が成り立っている。漢方の理論でもある。だから、ある人は1面ではとても素晴らしいものを持っているが、他の面では、とても耐えがたい人格を形成していることも多い。常によい人でありつづけられるくらいタフな人間は滅多にいない。1つの山を削って埋めるだけの深い谷を誰もが持っている。  何かに行き詰まったり、失敗した時、或いは負けた時、人はなにかのせいにする。滅多に自分のせいにはしない。人のせい、機械のせい、動物のせい、天気のせい。決して最初から自分のせいにはしない。だから多くの場合、理由をつけて他者を攻撃する。攻撃することで自分を守りやっとバランスを保っている。保身はどんな早撃ちの拳銃使いよりも早くガンベルトからぬかれる。  日代わりで「あの人は良い人だ」と「保身が」後から後から行列を作る。これらを超越するのは難しい。方法は雲の上に上るか、地を這うかのどちらだと思うのだが。