攻撃的

 かなりの人に処方されている抗ウツ薬に関しての注意喚起がやたら最近薬局に届く。勿論薬局だけでなく、医療機関にはそれよりも頻繁に届いているだろう。患者さんを診て処方を決めるのはお医者さんなのだから。僕らは受け身だから副作用の説明などをすればいいのだが、これがとても難しい。特に今回の注意は「攻撃性が増し」その結果、薬の影響が否定できない傷害事件が20件くらい実際に起こっているというのだから。お達しでは、家族等にこのリスクを充分説明し緊密に連絡を取り合うようにと指導されている。  さて、薬を渡すときに「この薬は気分を落ち着かせよく効きますよ。でも時に攻撃的になり人を傷つけてしまうこともあります」なんて言えない。言えば誰も飲む人がいなくなる。家族も飲ませたくなくなるだろう。恐らく何百万人が飲んで20人くらいだから確率からすれば他の副作用と比べても決して高いわけではない。ただ、結果の重要性から考えると1人でもその様な悪影響を受けるのは気の毒だ。薬を飲んで頂くためにいい薬ですよと良い面ばかり強調すると、副作用を未然に防ぐことは出来ない。正直すごいジレンマだ。恐らく全国の薬局が同じ悩みを抱えているのではないか。  これを難なくやり遂げることが出来るとしたら、平生如何に砕けたつき合いをしているかどうかだと思う。僕の薬局の場合、処方箋だけ取りに来る関係の人も少なからずいる。基本的にはかなりの人と親しいのだが、中にはその様な人もいる。時間を掛けて親しくなれる人もいるのだが、何時までも他人行儀の人もいる。普通の薬局業務の関係は「気が合うから来る」人が多いのだが、処方箋の場合は「便利だから持ってくる」人の割合が多い。贅沢な話かもしれないが、長い時間を掛けて気の合わない人には来て頂き難い関係を意図的に築いてきた。そうしないとこちらがもたないからだ。おかげで何十年かやってこれたが、処方箋の場合はそうはいかない。法的に拒否できないからだ。  心地よい環境、例えば川が流れ、丘に木々が茂り鳥の泣き声も聞こえ、子供達の歓声も届くようなところで働き暮らせれれば、あのような薬も必要ないのだろうが、寧ろ状況は逆だ。薬の力を借りながら懸命に日常を送っている人が増えた。薬中心の治療だと必然として好ましからざる結果も避けれない。ジレンマを解決できないジレンマを解決してくれるのはやはり「時に攻撃的になる」あの薬なのだろうか。