チャプリン

 チャングムの誓いの主演女優のイ・ヨンエが、女優を志した理由は、チャプリンの「モダンタイムズ」を観た事によるらしい。「映画の中に、涙あり笑いありで悲劇と喜劇が共存して、余韻と豊なヒューマニティーが感じられる」とは彼女の弁だ。18歳の時に観たらしいが、成功する人はその感銘を生きていく上の強力な動機に変える。僕は牛窓に帰ってから観たのだが、「独裁者」のモノローグに郷愁を感じて、青春の挫折を回顧したに過ぎない。  チャプリンの映画を観てから、他の映画を観る気がなくなった。莫大なお金を使って作ったものでも、チャプリンの映画を超えるものを知らないから。チャプリンを生んだ時代背景に又戻っているような気がする。バブルの頃、もう貧しさをテーマでは劇を作れなくなったといった作家がいたが、これからは再び貧しさで作品が書けるだろう。これからは経済だけではなく、心の貧しさでも一杯作品が書ける。日常は小説にこれでもかこれでもかと、題材を垂れ流している。  悲しさにも品が、喜びにも品が、貧しさにも品が溢れている。観た後で誰も支配せずに、誰にも支配されない、喜びも悲しみも分かち合えるような夢をチャプリンは見せてくれた。